「無害有効な治療法」は免許なしでも業として行うことはアリか?ナシか? 昭和35年 最高裁判決文を読み解く

いわゆる「昭和35年最高裁判決」ははり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師などの免許なしに「HS式高周波治療器」という物療器によって治療行為をおこなった者があはき法違反で逮捕された事件について昭和35年に最高裁判所から出された判決です。
この判決文が今現在も誤解され続けています
それははり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師」は医業をおこなう施術者であり、医業の一端を担う免許を持つ者なのにも関わらず、「医業に類似した違法な行為」をおこなう「医業類似行為業者」だという誤解です。
このような誤解が生じたきっかけが「昭和35年最高裁判決」です。
そこで今回はこの判決文を正しく読み解いてみようと思います。
ちなみにこの判決文は以下のリンクから原文を読むことができます。

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

まずは事件の経緯をざっくりまとめてみます。

STEP
ことの発端は昭和26年9月

常磐炭鉱の鉱夫だった後藤博がHS式高周波治療器を購入し、炭鉱仲間に治療を始めたことです。
治療を始めて3日後、後藤は警察に「医業類似行為」として逮捕されました。

STEP
昭和28年 福島県平簡易裁判所にて一審判決

医業類似行為の違反、罰金罰金1,000円の執行猶予付き判決となりました。
後藤は「HS式高周波治療器の治療法は無害有効なので医業類似行為には当たらない」と主張し仙台高等裁判所へ控訴します。

STEP
昭和29年6月 仙台高等裁判所控訴審も有罪判決

この判決で高裁は「医業類似行為とは、疾病の治療または保険の目的でする行為であって、医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゆう師、または柔道整復師等の、法令で正式にその資格を認められた者がその業務としてする行為でないもの」医業類似行為を定義しました。この定義は実は今でも生きています。
後藤は「この療法が医業類似行為で違法というなら、危害を与えた事実もない無害有効の治療を禁ずる法12条は、国民に職業選択の自由を保証した憲法22条に違反する無効の条文である」と最高裁へ上告し憲法判断を問います。

STEP
昭和35年 最高裁上告審 判決(←今回はこれを読み解きます)

1、あはき法が医業類似行為を禁止処罰するのは違憲ではない
→憲法違反という被告の訴えは退けました。
2、仙台高裁の判決を破棄差し戻し
→HS高周波療法が有害か無害かの検証を再度仙台高裁で行うこととしました。

STEP
この昭和35年最高裁上訴審判決のマスコミ報道がかなり誤解を招くミスリードとなりました。

新聞の見出しは以下の通りです。
・朝日新聞『無害なら罪にならぬ』
→有害か無害かの検証を高裁に差し戻したのであって無害なら罪にならないとは誰も言っていないのにもかかわらずこの見出しです。
・毎日新聞『有害な場合だけ制限、あんま・はり等の医業類似行為』
有害な場合だけ制限ととは誰も言ってないし、あんま・はりは医業類似行為ではないので二重に誤った見出しです。

これらの新聞報道により全国に無免許あん摩の蔓延を招くこととなりました。
その状況にたまりかねた当時の厚生省は最高裁判決から2ヶ月後、全国の知事宛に以下の通達を出しました。
『「この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺激等の療術行為について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう、柔道整復の業に関しては判断していないものであるから」免許制の施術行為は有害か否かにかかわらず、無免許者はその行為を以て取り締まるものとする。』
通達を出すも時すでに遅しでこの状況は時を追うごとに拍車がかかり、今では国会でも行政でも地方自治体でも「はり、きゅう、あん摩、マッサージ、指圧、柔道整復は医業類似行為」という誤った認識が定着している状況です。

STEP
昭和38年 仙台高裁での差し戻し判決 有罪

後藤の主張するHS式高周波治療器は実は低周波治療器で人体に影響を及ぼすことがわかり、無資格のものがこれを使用して治療行為を行うことは人体に有害な影響を及ぼす恐れがあることが立証されました。

STEP
昭和39年 最高裁へ再度上告も上告棄却 有罪確定

「昭和35年最高裁判決で無害な医業類似行為は無罪になった」という嘘がまかり通っていますが、実際はこの通り昭和39年に有罪が確定しています。

以上が事件の経緯です。
本題に入ります。
この判決文は大きく分けて4つに分けられます。

1、主文
2、被告人の上告趣意に対する最高裁の判決理由
3、裁判官田中耕太郎、下飯坂潤夫の反対意見
4、裁判官石坂修一の反対意見

このように4つに分けてこの判決文を読み解いていこうと思います。

目次

主文

主 文

  原判決を破棄する。

     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

「主文」とは、判決文のうちの結論にあたります。
「原判決を破棄する」の「原判決」とは、この最高裁判所の上訴審に対する控訴審の判決のことを意味します。
最高裁へ上告する前の仙台高等裁判所での控訴審判決のことです。これを「破棄する」ということです。
「原判決を破棄する」とは「仙台高等裁判所での控訴審判決を破棄する」という意味です。
「破棄する」とは「取り消す」を意味します。
裁判では「破棄」には3つの種類があります。
1、破棄差し戻し
2、破棄移送
3、破棄自判
この判決では、「本件を仙台高等裁判所に差し戻す」とありますので「1、破棄差し戻し」にあたります。
つまり、主文の意味は、「仙台高等裁判所での控訴審判決を取り消して再び仙台高等裁判所に差し戻します」となります。
仙台高等裁判所の控訴審判決はなぜ破棄されたのか?
差し戻して何を再度審議するのか?
このような疑問が出てきます。
その答えが「2、被告人の上告趣意に対する最高裁の判決理由」で述べられています。
みていきましょう。

被告人の上告趣意に対する最高裁の判決理由

      理    由

被告人の上告趣意について。

論旨は、被告人の業としたHS式無熱高周波療法が、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法にいう医業類似行為として同法の適用を受け禁止されるものであるならば、同法は憲法二二条に違反する無効な法律であるから、かかる法律により被告人を処罰することはできない。

本件HS式無熱高周波療法は有効無害の療法であつて公共の福祉に反しないので、これを禁止する右法律は違憲であり、被告人の所為は罪とならないものであるというに帰する。

憲法二二条は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有することを保障している。

されば、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法一二条が何人も同法一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならないと規定し、同条に違反した者を同一四条が処罰するのは、これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない。

ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである。

それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであつて、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律一二条、一四条は憲法二二条に反するものではない。

しかるに、原審弁護人の本件HS式無熱高周波療法はいささかも人体に危害を与えず、また保健衛生上なんら悪影響がないのであるから、これが施行を業とするのは少しも公共の福祉に反せず従つて憲法二二条によつて保障された職業選択の自由に属するとの控訴趣意に対し、原判決は被告人の業とした本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼす虞があるか否かの点についてはなんら判示するところがなく、ただ被告人が本件HS式無熱高周波療法を業として行つた事実だけで前記法律一二条に違反したものと即断したことは、右法律の解釈を誤つた違法があるか理由不備の違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすものと認められるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。

よつて、刑訴四一一条一号、四一三条前段に従い、主文のとおり判決する。

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

上記が判決理由となります。
一文ずつ噛み砕いていきましょう。

理    由
被告人の上告趣意について。

「理由」は以下に判決理由が述べられているとわかります。
「被告人の上告趣意について」を噛み砕いていきます。
「被告人」は最高裁に上告した被告で無免許で物理療法器で治療行為を行って逮捕された者です。
「上告趣意」とは、「最高裁判所に上告した目的」ということになります。
つまり「被告人が最高裁判所に上告した目的が述べられている」ことがわかります。

論旨は、被告人の業としたHS式無熱高周波療法が、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法にいう医業類似行為として同法の適用を受け禁止されるものであるならば、同法は憲法二二条に違反する無効な法律であるから、かかる法律により被告人を処罰することはできない。
本件HS式無熱高周波療法は有効無害の療法であつて公共の福祉に反しないので、これを禁止する右法律は違憲であり、被告人の所為は罪とならないものであるというに帰する。

「論旨は」から「帰する」までが被告人の主張です。
被告人は次の3つを主張しています。

1、被告人がおこなっていた治療法が、あはき法で禁止されているならば、あはき法は憲法二十二条に違反する無効な法律ということになる。だからこのような無効な法律で被告人を処罰することはできない。
2、被告人の行っていた治療法は有効で無害な治療法なので公共の福祉に反しない。それを禁止する法律は違憲。
3、だから被告人は無罪。

これについて最高裁の考えが次に述べられます。

憲法二二条は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有することを保障している。
されば、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法一二条が何人も同法一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならないと規定し、同条に違反した者を同一四条が処罰するのは、これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない。

憲法二十二条では公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を保障しています。
あはき法第十二条では医業類似行為を禁止し、十四条で処罰します。その理由は、医業類似行為が公共の福祉に反するものと認めているからです。
」というのが最高裁の考え方です。
最高裁の考えがさらに続きます。

ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである。
それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであつて、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律一二条、一四条は憲法二二条に反するものではない。

医業類似行為が公共の福祉に反するのはその行為が人の健康に害を及ぼす恐れがあるからです。
そのためにあはき法によって医業類似行為を禁止処罰するのは人の健康に害を及ぼす恐れがある行為に限ってという目的だと解釈しなければなりません。
このような禁止処罰は公共の福祉上必要だからあはき法十二条、十四条は憲法二十二条に反するものではありません。

この通り、「医業類似行為を禁止処罰することは憲法二十二条には反しない」ということがわかります。
ここまでで違憲か合憲かを争う最高裁判所では、医業類似行為を禁止処罰することは憲法には違反しないということが結論となりました。
次は控訴審を破棄して差し戻す理由について述べられています。

しかるに、原審弁護人の本件HS式無熱高周波療法はいささかも人体に危害を与えず、また保健衛生上なんら悪影響がないのであるから、これが施行を業とするのは少しも公共の福祉に反せず従つて憲法二二条によつて保障された職業選択の自由に属するとの控訴趣意に対し、原判決は被告人の業とした本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼす虞があるか否かの点についてはなんら判示するところがなく、ただ被告人が本件HS式無熱高周波療法を業として行つた事実だけで前記法律一二条に違反したものと即断したことは、右法律の解釈を誤つた違法があるか理由不備の違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすものと認められるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。

にもかかわらず、仙台高等裁判所での控訴審の弁護人が主張していたことに関しては判示していない。
ということを最高裁は述べています。控訴審で被告の弁護人はどのような主張をしていたのでしょうか?
弁護人の主張は以下の4つです。

1、被告の治療法は全く人体に危害を与えない。
2、保健衛生上悪影響がない。
3、だから公共の福祉に反しない。
4、だから憲法二十二条によって保障された職業選択の自由に属する

「これに対して控訴審判決では被告人の治療法が人の健康に害を及ぼすかどうかの点について全く判示していない
被告人が無免許で物療器によって治療した事実だけであはき法十二条に違反したものとして即断した
法の解釈を誤った違法があるか理由不備の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすものと認められる。
だから控訴審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきだ。」
「法の解釈」をするために必要なのは1、正義と公平の概念への適合性と、2、普遍的な妥当性でこと2つが達成できていないとその解釈は誤りということになります。
ここで言う「法の解釈を誤った違法」とは、「あはき法十二条で医業類似行為を禁止しているがその解釈を誤って医業類似行為を行う、という違法」ということになります。
「理由不備」とは判決において結論を導き出すための理由に欠けているということです。
「理由不備の違法」とは、「結論を導き出すための材料が揃っていない状態で判決を出された違法」ということです。
最高裁は被告の治療法が人の健康に害を及ぼすのかどうか検証していないことを問題視していることがここから読み取れます。
しかし、後程、この「検証しないことを問題視していること」への反対意見が述べられています。

よつて、刑訴四一一条一号、四一三条前段に従い、主文のとおり判決する。

ざっくり要約しますと、「医業類似行為を禁止処罰することは合憲。被告人の治療法が人の健康に害を及ぼすかどうかを控訴審で検証していないのでそこを検証してから判決を出すために控訴審を破棄して高等裁判所へ差し戻す」ということになります。

この判決は、裁判官田中耕太郎、同下飯坂潤夫、同石坂修一の後記反対意見あるほか、裁判官全員の一致した意見によるものである。

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

この通り、この最高裁判決は裁判官全員一致した意見によって出された判決ですが、2つの反対意見がありました。
1つは田中判事と下飯坂判事の反対意見、もう1つは石坂判事の反対意見です。
この2つの反対意見を次に読み解いていきます。

裁判官田中耕太郎、下飯坂潤夫の反対意見

裁判官田中耕太郎、同下飯坂潤夫の反対意見は次の通りである。

われわれは、医業類似行為を業とすることの法律による処罰が、「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨」のものとする多数意見の解釈に賛成することができない。人の健康に害を及ぼす虞れがあるかないかは、療治をうける対象たる「人」の如何によつてちがつてくる。またそれは療治の実施の「方法」の如何にもかかつている。従つて有害無害は一概に判断できない場合がはなはだ多い。この故に法律は医業類似行為が一般的に人の健康に害を及ぼす虞れのあるものという想定の下にこの種の行為を画一的に禁止したものである。個々の場合に無害な行為といえども取締の対象になることがあるのは、公共の福祉の要請からして、やむを得ない。かような画一性は法の特色とするところである。

要するに本件のような場合に有害の虞れの有無の認定は不必要である。いわんや法律の趣旨は原判決や石坂裁判官の反対意見にのべられているような、他の理由をもふくんでいるにおいておや。つまり無害の行為についても他の弊害が存するにおいておや。

 以上の理由からしてわれわれは本件上告を理由がないものとし、棄却すべきものと考える。

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

まずは田中裁判長と下飯坂裁判官の反対意見を読み解いていきます。

裁判官田中耕太郎、同下飯坂潤夫の反対意見は次の通りである。

田中裁判長と下飯坂裁判官は同じ反対意見を持っているということがここからわかります。
この事件の何についてどのような反対意見なのかが以下に述べられています。

われわれは、医業類似行為を業とすることの法律による処罰が、「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨」のものとする多数意見の解釈に賛成することができない。

「われわれ」とは田中裁判長と下飯坂裁判官のことでしょう。
「医業類似行為を業とすることの法律による処罰」とはあはき法十四条のことでしょう。
あはき法十二条と十四条は以下の通りです。

あはき法
第十二条 何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。

あはき法十二条に関してはこちらで以前解説しました。
合わせて参照いただけると幸いです。
【あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律】第十二条解説

あはき法
第十四条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第十三条の八第一号又は第五号から第七号までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の刑を科する。

「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨」のもの』とは『「人の健康に害を及ぼす恐れのある行為着限定する目的」のもの』、ということでしょう。
その解釈が多数だったが、その解釈に両名は反対だ、ということです。
どこに反対なのでしょうか?

人の健康に害を及ぼす虞れがあるかないかは、療治をうける対象たる「人」の如何によつてちがつてくる。

「人の健康に害を及ぼす恐れがあるかないかは、治療を受ける対象である「人」がどのような状態であるかによって違ってくる。」

またそれは療治の実施の「方法」の如何にもかかつている。

「またそれは治療の「方法」の様子にも関わっている。」

従つて有害無害は一概に判断できない場合がはなはだ多い。

「よってその治療法が有害か無害かは一概に判断出来ない場合が非常に多い」

この故に法律は医業類似行為が一般的に人の健康に害を及ぼす虞れのあるものという想定の下にこの種の行為を画一的に禁止したものである。

『このため、あはき法は医業類似行為が一般的に「人の健康に害を及ぼす恐れがあるもの」という想定の下にこの種の行為を画一的に禁止したのです。』
上記の内容をまとめると、

人の健康に害を及ぼす恐れがあるかないかは、治療を受ける対象である「人」どのような状態であるかによって違ってくる。またそれは治療の「方法」の様子にも関わっている。よってその治療法が有害か無害か一概に判断出来ない場合が非常に多い。このため、あはき法医業類似行為が一般的に人の健康に害を及ぼす恐れがあるものという想定の下にこの種の行為を画一的に禁止したのです。」

となります。
続けていきます。

個々の場合に無害な行為といえども取締の対象になることがあるのは、公共の福祉の要請からして、やむを得ない。

「個々の例を一つ一つ細かく見ていけば無害な行為があるかもしれない。しかし無害と言えども取り締まりの対象になるのは公共の福祉のために必要なことを実施する上でやらなければならないことなのです。」

かような画一性は法の特色とするところである。

「このような個々の事情や個性、性質を考慮せずに全体を一様に揃えることは法の特色です。」

要するに本件のような場合に有害の虞れの有無の認定は不必要である。

「私たちが言いたいのは、本件のような場合に有害の恐れがあるかないかの認定は必要ない。」

いわんや法律の趣旨は原判決や石坂裁判官の反対意見にのべられているような、他の理由をもふくんでいるにおいておや。

「もちろん、あはき法が医業類似行為を禁止処罰している目的は、仙台高等裁判所の出した控訴審判決や石坂裁判官の反対意見に述べられているような理由を含んでいることは言わずともわかるでしょう。」

つまり無害の行為についても他の弊害が存するにおいておや。

「つまり、無害の行為であったとしても他の弊害が存在することも言わずともわかるでしょう。」

以上の理由からしてわれわれは本件上告を理由がないものとし、棄却すべきものと考える。

「以上の理由から、私たちは本件の上告は理由がないものとし、棄却すべきものと考えます。」
まとめると、以下の通りになります。

個々の例を一つ一つ細かく見ていけば無害な行為があるかもしれない。しかし無害と言えども取り締まりの対象になるのは公共の福祉のために必要なことを実施する上でやらなければならないことなのです。このような個々の事情や個性、性質を考慮せずに全体を一様に揃えること法の特色です。私たちが言いたいのは、本件のような場合に有害の恐れがあるかないかの認定は必要ないということです。もちろん、あはき法が医業類似行為を禁止処罰している目的は、仙台高等裁判所の出した控訴審判決や石坂裁判官の反対意見に述べられているような理由を含んでいることは言わずともわかるでしょう。つまり、無害の行為であったとしても他の弊害が存在することも言わずともわかるでしょう。以上の理由から、私たちは本件の上告は理由がないものとし、棄却すべきものと考えます。

次に石坂裁判官の反対意見を読み解いていきます。

裁判官石坂修一の反対意見

裁判官石坂修一の反対意見は次の通りである。

私は、多数意見の結論に賛同できない。原審の判示する所は、必ずしも分明であるとはいえないけれども、原審挙示の証拠とその判文とを相俟つときは、原審は、被告人が、HS式高周波器といふ器具を用ひ、料金を徴して、HS式無熱高周波療法と称する治療法を施したこと、即ち右施術を業として行つたこと、HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためのみならず、疾病治療のためにも行はれ、少くとも右HS式無熱高周波療法が、これに使用せられる器具の製作者、施術者並に被施術者の間では、殆んど凡ての疾病に顕著な治療効果があると信ぜられて居ること及び右治療法が、HS式高周波器により二枚の導子を以つて患部を挟み、電流を人体に透射するものであることを認定して居るものと理解し得られる。 かゝる治療方法は、健康情態良好なる人にとりては格別、違和ある人、或は疾病患者に、違和情態、疾病の種類、その程度の如何によつては、悪影響のないことを到底保し難い。それのみならず、疾病、その程度、治療、恢復期等につき兎角安易なる希望を持ち易い患者の心理傾向上、殊に何等かの影響あるが如く感ぜられる場合、本件の如き治療法に依頼すること甚しきに過ぎ、正常なる医療を受ける機会、ひいては医療の適期を失い、恢復時を遅延する等の危険少なしとせざるべく、人の健康、公共衛生に害を及ぼす虞も亦あるものといはねばならない。(記録に徴しても、HS式高周波器より高周波電流を人体に透射した場合、人体の透射局所内に微量の温熱の発生を見るのであつて、健常人に対し透射時間の短いとき以外、生理的に無影響とはいえない。)されば、HS式無熱高周波療法を、健康の維持増進に止まらないで、疾病治療のために使用するが如きことは、何事にも利弊相伴う実情よりして、人体、及びその疾病、これに対する診断並に治療についての知識と、これを使用する技術が十分でなければ、人の保健、公共衛生上必ずしも良好なる結果を招くものとはいえない。

したがつて、前記高周波器を使用する右無熱高周波療法を業とする行為は、遽に所論の如く、公共の福祉に貢献こそすれ、決してこれに反しないものであるとなし得ない。而してあん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法が、かゝる医業類似行為を資格なくして業として行ふことを禁止して居る所以は、これを自由に放置することは、前述の如く、人の健康、公共衛生に有効無害であるとの保障もなく、正常なる医療を受ける機会を失はしめる虞があつて、正常なる医療行為の普及徹底並に公共衛生の改善向上のため望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上をはかると共に、国民各々に正常なる医療を享受する機会を広く与へる目的に出たものと解するのが相当である。したがつて原判示の如き器具を使用して、原判示の如き医業類似行為を業とすることを禁止する本法は、公共の福祉のため、必要とするのであつて、職業選択の自由を不当に制限したとはいえないのであるから、これを憲法違反であるとは断じ得ない。単に治療に使用する器具の物理的効果のみに着眼し、その有効無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべしとする見解には組し得ない。

原判示は以上と同趣旨に出で居るのであるからこれを維持すべきものであると考へる。

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

石坂裁判官はどのような反対意見なのでしょうか。
みていきましょう。

裁判官石坂修一の反対意見は次の通りである。

「石坂裁判官の反対意見は次のとおりです。」

私は、多数意見の結論に賛同できない。

「私は多数意見の結論に賛同できない。」
「多数意見の結論」とは主文に述べられていることです。
つまり、

医業類似行為を禁止処罰することは合憲。被告人の治療法が人の健康に害を及ぼすかどうかを控訴審で検証していないのでそこを検証してから判決を出すために控訴審を破棄して高等裁判所へ差し戻す

という結論に反対だということです。
どの部分に賛同できないのでしょうか?
続けてみていきましょう。

原審の判示する所は、必ずしも分明であるとはいえないけれども、原審挙示の証拠とその判文とを相俟つときは、原審は、被告人が、HS式高周波器といふ器具を用ひ、料金を徴して、HS式無熱高周波療法と称する治療法を施したこと、即ち右施術を業として行つたこと、HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためのみならず、疾病治療のためにも行はれ、少くとも右HS式無熱高周波療法が、これに使用せられる器具の製作者、施術者並に被施術者の間では、殆んど凡ての疾病に顕著な治療効果があると信ぜられて居ること及び右治療法が、HS式高周波器により二枚の導子を以つて患部を挟み、電流を人体に透射するものであることを認定して居るものと理解し得られる。

非常に長い一文です。
原審」とは、この最高裁の裁判の一つ前の裁判のことです。仙台高裁での控訴審のことですね。

原審の判事するところとは、仙台高裁控訴審で判事したこと

必ずしも分明であるとはいえないけれどもとは、必ずしもはっきりしたものであるとは言えないけれども

原審挙示の証拠とその判文とを相俟つときはとは、仙台高裁の控訴審で示された証拠とその判決文の両方を合わせて考えると

原審は、被告人が、HS式高周波器といふ器具を用ひ、料金を徴して、HS式無熱高周波療法と称する治療法を施したこと、即ち右施術を業として行つたこと、とは、仙台高裁の控訴審は、被告人が、HS式高周波器という器具を用いて、料金を徴収し、HS式無熱高周波療法という治療法を施したこと、つまり以上の施術を業として行ったこと

HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためのみならず、疾病治療のためにも行はれ、とは、HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためだけでなく、病気の治療のためにも行われ

少くとも右HS式無熱高周波療法が、これに使用せられる器具の製作者、施術者並に被施術者の間では、とは、少なくともHS式無熱高周波療法が、この器具の製作者、施術者並びに被施術者の間では、

殆んど凡ての疾病に顕著な治療効果があると信ぜられて居ることとは、ほぼすべての病気に誰の目にも明らかな治療効果があると信じられていること、という意味です。

及び右治療法が、HS式高周波器により二枚の導子を以つて患部を挟み、電流を人体に透射するものであることを認定して居るものと理解し得られる。とは、そしてその治療法が、HS式高周波器によって二枚の導子(人体の皮膚に接する電流の入出部)を使って患部を挟み、電流を人体に流すものであることを認めていると理解しているとわかる、ということです。

まとめると以下の通りになります。

仙台高裁の控訴審で示された証拠とその判決文の両方を合わせて考えると次の5つのことがわかる。
1、仙台高裁の控訴審は、被告人が、HS式高周波器という器具を用いて、料金を徴収し、HS式無熱高周波療法という治療法を施したこと
2、つまり以上の施術を業として行ったこと
3、HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためだけでなく、病気の治療のためにも行われたこと
4、少なくともHS式無熱高周波療法が、この器具の製作者、施術者並びに被施術者の間では、ほぼすべての病気に誰の目にも明らかな治療効果があると信じられていること
5、そしてその治療法が、HS式高周波器によって二枚の導子(人体の皮膚に接する電流の入出部)を使って患部を挟み、電流を人体に流すものであることを認めている

続きます。

 かゝる治療方法は、健康情態良好なる人にとりては格別、違和ある人、或は疾病患者に、違和情態、疾病の種類、その程度の如何によつては、悪影響のないことを到底保し難い。

「このような治療方法は、健康状態が良い人に対しては別として、症状のある人、あるいは病気の患者に、症状の状態、病気の種類、その程度や度合いによっては、その治療法による悪い影響がないとはどう考えても保証し難い。」

それのみならず、疾病、その程度、治療、恢復期等につき兎角安易なる希望を持ち易い患者の心理傾向上、殊に何等かの影響あるが如く感ぜられる場合、本件の如き治療法に依頼すること甚しきに過ぎ、正常なる医療を受ける機会、ひいては医療の適期を失い、恢復時を遅延する等の危険少なしとせざるべく、人の健康、公共衛生に害を及ぼす虞も亦あるものといはねばならない。

「それだけでなく、病気、その病気の程度、その病気の治療、その病気の回復期などによってあれやこれやといい加減な希望を持ちやすい患者の心理傾向があり、加えて何かしらの影響があるように感じられる場合、本件のような治療法に任せてしまう期間があまりに長期に及んでしまうと、標準治療を受ける機会、さらには標準治療を受ける適切な時期を失い、回復する時期を遅らせてしまうなどの危険はしくないとは言えず、人の健康、公共衛生に害を及ぼす恐れもまたあると言わねばなりません。」

(記録に徴しても、HS式高周波器より高周波電流を人体に透射した場合、人体の透射局所内に微量の温熱の発生を見るのであつて、健常人に対し透射時間の短いとき以外、生理的に無影響とはいえない。)

「(原審の記録に照らし合わせても、HS式高周波器から高周波電流を人体に流した場合、人体の電流を流した部位に微量の温熱が発生することがわかっていて、健常な人に対して電流を通す時間の短い時以外、生理的に影響はないとは言えない。)」

されば、HS式無熱高周波療法を、健康の維持増進に止まらないで、疾病治療のために使用するが如きことは、何事にも利弊相伴う実情よりして、人体、及びその疾病、これに対する診断並に治療についての知識と、これを使用する技術が十分でなければ、人の保健、公共衛生上必ずしも良好なる結果を招くものとはいえない。

「そうであるならば、HS式無熱高周波療法を、健康維持増進だけに留まらず、病気の治療のために使うようなことは、どのような些細なことにも利益と弊害をあわせ持つという実際の状態であるので、人体、加えてその病気、これに対する診断と治療についての知識と、診断と治療をする技術が十分でなければ、人の保健、公共衛生上必ずしも良好な結果を招くものとは言えない

したがつて、前記高周波器を使用する右無熱高周波療法を業とする行為は、遽に所論の如く、公共の福祉に貢献こそすれ、決してこれに反しないものであるとなし得ない。而してあん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法が、かゝる医業類似行為を資格なくして業として行ふことを禁止して居る所以は、これを自由に放置することは、前述の如く、人の健康、公共衛生に有効無害であるとの保障もなく、正常なる医療を受ける機会を失はしめる虞があつて、正常なる医療行為の普及徹底並に公共衛生の改善向上のため望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上をはかると共に、国民各々に正常なる医療を享受する機会を広く与へる目的に出たものと解するのが相当である。

「したがって、前に記した高周波器を使うHS式無熱高周波療法を業とする行為は、急に出てきた根拠不明の治療法のようで、公共の福祉に貢献するものだろうか、決して公共の福祉に反しないものであるとは言えない。それからあん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法が、このような医業類似行為を無資格で業として行うことを禁止している理由は、これを自由に放置することは、前述のように、人の健康、公共衛生に有効無害であるという保証もなく、標準治療を受ける機会を失う恐れがあり、標準治療の普及徹底と公共衛生の改善向上のために望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上を行うと共に、国民一人一人に標準治療を享受する機会を広く与える目的に出したものと理解するのが相応しい。」

したがつて原判示の如き器具を使用して、原判示の如き医業類似行為を業とすることを禁止する本法は、公共の福祉のため、必要とするのであつて、職業選択の自由を不当に制限したとはいえないのであるから、これを憲法違反であるとは断じ得ない。

「したがって仙台高裁控訴審判決に示されているような器具を使って、医業類似行為を業とすることを禁止するあはき法十二条は、公共の福祉のため、必要なのであって、職業選択の自由を不当に制限したとは言えないのだから、これを憲法違反であると断言することはできない」

単に治療に使用する器具の物理的効果のみに着眼し、その有効無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべしとする見解には組し得ない。

「単に治療に使う器具の物理的効果だけに着目して、それが有効で無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべきとする見解に組みすることはできない

原判示は以上と同趣旨に出で居るのであるからこれを維持すべきものであると考へる。

「仙台高裁控訴審判決は以上の私と同じ意見であるから、原判決を破棄せずこれを維持し上告を棄却すべきと考える。」
まとめますと以下の通りになります。

1、HS式無熱高周波療法のような治療法は、健康な人に対しては別として、症状のある人、あるいは病気の患者にその治療法による悪い影響がないとは言えない。
2、病気の人はその状況によっていい加減な希望を持ちやすい心理傾向がある。
3、その治療法に任せてしまう期間があまりに長期に及んでしまうと、標準治療を受ける機会、さらには標準治療を受ける適切な時期を失い、回復する時期を遅らせてしまうなどの危険があり、人の健康、公共衛生に害を及ぼす恐れもある。
4、HS式無熱高周波療法を、健康維持増進だけに留まらず、病気の治療のために使うようなことは、どのような些細なことにも利益と弊害をあわせ持つというのが実際の状態である。
5、「人体とその病気に対する診断と治療についての知識」と「診断と治療をする技術」が十分でなければ、人の保健、公共衛生上良好な結果を招くものとは言えない。
6、高周波器を使うHS式無熱高周波療法を業とする行為は決して公共の福祉に反しないものであるとは言えない。
7、あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法が、このような医業類似行為を無資格で業として行うことを禁止している理由は、これを自由に放置することは、標準治療を受ける機会を失う恐れがあり、標準治療の普及徹底と公共衛生の改善向上のために望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上を行うと共に、国民一人一人に標準治療を享受する機会を広く与える目的に出したものと理解するのが相応しい。
8、仙台高裁控訴審判決に示されているような器具を使って、医業類似行為を業とすることを禁止するあはき法十二条は、公共の福祉のため、必要なのであって、職業選択の自由を不当に制限したとは言えないのだから、これを憲法違反であると断言することはできない。
9、単に治療に使う器具の物理的効果だけに着目して、それが有効で無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべきとする見解に組みすることはできない。
10、仙台高裁控訴審判決は以上の私と同じ意見であるから、原判決を破棄せずこれを維持し上告を棄却すべきと考える。

検察官 安平政吉公判出席。

昭和三五年一月二七日

最高裁判所大法廷

裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

裁判官    小   谷   勝   重

裁判官    島           保

裁判官    斎   藤   悠   輔

裁判官    藤   田   八   郎

裁判官    河   村   又   介

裁判官    垂   水   克   己

裁判官    河   村   大   助

裁判官    下 飯 坂   潤   夫

裁判官    奥   野   健   一

裁判官    高   木   常   七

裁判官    石   坂   修   一

事件番号 昭和29(あ)2990 /事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反

まとめ

以上、昭和35年最高裁判決を読み解いていきました。
こちらのまとめでは読み解いたものを全てまとめておきます。
全部通して読まれるとわかりやすいかもしれません。

1、主文

仙台高等裁判所での控訴審判決を取り消して再び仙台高等裁判所に差し戻します

2、理由
・被告人が最高裁判所に上告した理由
・最高裁判所の判示

・被告人が最高裁判所に上告した目的(①〜③)

①被告人がおこなっていた治療法が、あはき法で禁止されているならば、あはき法は憲法二十二条に違反する無効な法律ということになる。だからこのような無効な法律で被告人を処罰することはできない。
②被告人の行っていた治療法は有効で無害な治療法なので公共の福祉に反しない。それを禁止する法律は違憲。
③だから被告人は無罪。

・最高裁判所の判示
①医業類似行為を禁止処罰することは憲法二十二条に反しない
②控訴審を破棄して差し戻す

①医業類似行為を禁止処罰することは憲法二十二条には反しない

その理由
・憲法二十二条では公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を保障しています。
・あはき法第十二条で医業類似行為を禁止し、十四条で処罰するのは、医業類似行為が公共の福祉に反するものと認めているからです。
・医業類似行為が公共の福祉に反するのはその行為が人の健康に害を及ぼす恐れがあるからです。
・あはき法によって医業類似行為を禁止処罰するのは人の健康に害を及ぼす恐れがある行為に限ってという目的だと解釈しなければなりません。
・このような禁止処罰は公共の福祉上必要だからあはき法十二条、十四条は憲法二十二条に反するものではありません。

②控訴審を破棄して差し戻す

その理由
・仙台高等裁判所での控訴審の弁護人が主張していたことに関しては判示していない。

・弁護人の主張4つ
❶被告の治療法は全く人体に危害を与えない。
❷保健衛生上悪影響がない。
❸だから公共の福祉に反しない。
❹だから憲法二十二条によって保障された職業選択の自由に属する

・これに対して控訴審判決では被告人の治療法が人の健康に害を及ぼすかどうかの点について全く判示していない。
・被告人が無免許で物療器によって治療した事実だけであはき法十二条に違反したものとして即断した。
・あはき法の解釈を誤ったための違法があるか理由不備のために違法とされたと考えられ、この違法は判決に影響を及ぼすものと認められる。
・控訴審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきだ。
・医業類似行為を禁止処罰することは合憲。
・被告人の治療法が人の健康に害を及ぼすかどうかを控訴審で検証していないのでそこを検証してから判決を出すために控訴審を破棄して高等裁判所へ差し戻す

3、裁判官田中耕太郎、下飯坂潤夫の反対意見

人の健康に害を及ぼす恐れの有無は治療を受ける対象である「人」がどのような状態であるかによって違ってくる。
またそれは治療の「方法」の様子にも関わっている。
よってその治療法が有害か無害かは一概に判断出来ない場合が非常に多い。
このため、あはき法は医業類似行為が一般的に「人の健康に害を及ぼす恐れがあるもの」という想定の下にこの種の行為を画一的に禁止した。
個々の例を一つ一つ細かく見ていけば無害な行為があるかもしれない。
しかし無害と言えども取り締まりの対象になるのは公共の福祉のために必要なことを実施する上でやらなければならない。
このような個々の事情や個性、性質を考慮せずに全体を一様に揃えることは法の特色。
私たちが言いたいのは、本件のような場合に有害の恐れがあるかないかの認定は必要ないということ。
もちろん、あはき法が医業類似行為を禁止処罰している目的は、仙台高等裁判所の出した控訴審判決や石坂裁判官の反対意見に述べられているような理由を含んでいることは言わずともわかる。
つまり、無害の行為であったとしても他の弊害が存在することも言わずともわかる。
以上の理由から、私たちは本件の上告は理由がないものとし、棄却すべきものと考えます。

4、裁判官石坂修一の反対意見

仙台高裁の控訴審で示された証拠とその判決文の両方を合わせて考えると次のことがわかる。

1、仙台高裁の控訴審は、被告人が、HS式高周波器という器具を用いて、料金を徴収し、HS式無熱高周波療法という治療法を施したこと
2、つまり以上の施術を業として行ったこと
3、HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためだけでなく、病気の治療のためにも行われたこと
4、少なくともHS式無熱高周波療法が、この器具の製作者、施術者並びに被施術者の間では、ほぼすべての病気に誰の目にも明らかな治療効果があると信じられていること
5、そしてその治療法が、HS式高周波器によって二枚の導子(人体の皮膚に接する電流の入出部)を使って患部を挟み、電流を人体に流すものであることを認めている

HS式無熱高周波療法のような治療法は、健康な人に対しては別として、症状のある人、あるいは病気の患者にその治療法による悪い影響がないとは言えない。
病気の人はその状況によっていい加減な希望を持ちやすい心理傾向がある。
その治療法に任せてしまう期間があまりに長期に及んでしまうと、標準治療を受ける機会、さらには標準治療を受ける適切な時期を失い、回復する時期を遅らせてしまうなどの危険があり、人の健康、公共衛生に害を及ぼす恐れもある。
HS式無熱高周波療法を、健康維持増進だけに留まらず、病気の治療のために使うようなことは、どのような些細なことにも利益と弊害をあわせ持つというのが実際の状態である。
「人体とその病気に対する診断と治療についての知識」と「診断と治療をする技術」が十分でなければ、人の保健、公共衛生上良好な結果を招くものとは言えない。
高周波器を使うHS式無熱高周波療法を業とする行為は決して公共の福祉に反しないものであるとは言えない。
あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法が、このような医業類似行為を無資格で業として行うことを禁止している理由は、これを自由に放置することは、標準治療を受ける機会を失う恐れがあり、標準治療の普及徹底と公共衛生の改善向上のために望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上を行うと共に、国民一人一人に標準治療を享受する機会を広く与える目的に出したものと理解するのが相応しい。
仙台高裁控訴審判決に示されているような器具を使って、医業類似行為を業とすることを禁止するあはき法十二条は、公共の福祉のため、必要なのであって、職業選択の自由を不当に制限したとは言えないのだから、これを憲法違反であると断言することはできない。
単に治療に使う器具の物理的効果だけに着目して、それが有効で無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべきとする見解に組みすることはできない。
仙台高裁控訴審判決は以上の私と同じ意見であるから、原判決を破棄せずこれを維持し上告を棄却すべきと考える。

最後に、この判決文について私個人の考えを述べさせて頂きたいと思います。
ポイントは2つで、1つは、被告側の「無害で有効な治療法なのであれば免許を持たずにやって問題ないだろう」という議論に最高裁が乗ってしまったことです。これによって高等裁判所に差し戻されて、結果的にはHS式治療器は人体に影響があるということで有罪になりましたが、もし仮に『人体に影響がない』という検証結果だった場合どうだったでしょう?
もしかしたら被告人無罪になってたのかもしれません。
世の中に一体どれだけの種類の治療法があるでしょう?それら全てを検証して人体に影響があるかどうか、有害か無害かを検証する労力と時間を費やしていくことは果たして現実的でしょうか?
「無害であれば免許を持たずにやって問題ない」は今や「治療目的でなければ免許は必要ない」と解釈され、あん摩マッサージ指圧の名称は使用せず、免許を持たずに同様の手技を使った行為を業とする者が跋扈する今の状況を放置するに至ったきっかけとなったのはやはりこの昭和35年最高裁判決だったのではないか?と私は考えています。
そしてもう1つのポイントは田中、下飯坂裁判官と石坂裁判官の2つの反対意見です。
この二つの反対意見は上記の状況を想定した反対意見となっております。
例え無害だったとしてもその治療法をやることによって標準治療を受けるタイミングを失ったり遅れさせたりするリスクがあるし、そうなれば病状によっては深刻な事態を招きかねないので例え無害だったとしても無免許での治療行為は許されない、ということです。
この意見に対する説得力のある反対意見を私は聞いたことがないのですが、この意見が判決に反映されなかったことが残念でなりません。この2つの反対意見の締めくくりは共に「上告は棄却すべき」です。そうはならなかったことが本当に残念でなりません。

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