アイシングは肉離れなどの筋損傷後の再生を遅らせる
以前、以下の記事がスポーツ関係者の間で話題になりました。
https://research-er.jp/articles/view/98701
『神戸大学大学院保健学研究科の荒川高光准教授、博士後期課程大学院生(当時)川島将人らと、千葉工業大学の川西範明准教授らの研究グループは、遠心性収縮モデルマウスを用いて、筋損傷に対するアイシングが筋再生を遅らせることを明らかにしました。またこの現象に、炎症性マクロファージの損傷細胞への浸潤度が関与する可能性を明らかにしました。今後、肉離れなどの重い筋損傷に対するアイシングの是非が問われていくことになります。』
運動をしていた際に肉離れをしたり、足を捻ったり、打撲をしたりといった怪我をしたことのある方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?そんな怪我をした際にやる処置として代表的なのがアイシングです。アイシングによって炎症を抑えることが目的なのですが、それによって怪我の治癒を遅らせているのではないか?ということが示唆される今回の研究結果でした。ではこの研究はどのようなものだったのかをざっくりまとめてみます。
研究の概要
マウスの筋肉をサンプルとして使用しています。
怪我した際には30分間2時間ごとに3回もアイシングはしません。あくまで研究としておこなわれた方法です。
アイシングした方が骨格筋の再生が遅くなるようです。
時間経過ごとのサンプルを比較するということですね。
アイシングによって炎症は抑えられることは確かのようですが、炎症を抑えてしまうと損傷した筋肉の再生が遅れてしまう可能性があるようです。
損傷した筋肉の中に炎症性マクロファージが入り込むことが重要なわけですね。つまりある程度炎症を促進させないと損傷した筋は修復されないということかもしれません。
重い肉離れの際はみなさんかなり痛がるので早急にアイシング!と考えていましたがそれをやりすぎると治り遅くなるかも?ということですね。
今回は重い肉離れの場合で軽い肉離れの場合はアイシングが有効な場合もあるかもしれないということですね。そして、この研究の対象はマウスであって、もしかしたらヒトでは違う結果になるかもしれません。マウスの筋肉ちっちゃいですし、それを全部30分氷で冷やしたらそりゃあ「回復遅れるでしょ」って思いますよね。たとえヒトがふくらはぎをひどく肉離れしたとして、ふくらはぎ全体を覆うようにアイシング30分もしないですよね?損傷部位の周囲だけを10-15分くらいアイシンングするのが通常ではないでしょうか?
今後、研究をさらに進めていただきたいと思います。
”RICE”の提唱者の訂正
RICEとはスポーツ競技時い急性外傷を負った際に行うべき処置4つの頭文字をとった名称です。
1978年、アメリカでDr.Gabe Mirkin(ゲイブ・マーキン)が、RICE(Rest、Ice、Compression、Elevation)をはじめて提唱しましたが、彼自身が今はアイシングと完全な休息は間違いだったと訂正しています。
以下その論文のスポーツで怪我した際の推奨させる対応方法です。
『けがをした場合は、すぐに運動をやめてください。痛みがひどい場合、動けない場合、混乱したり、一瞬でも意識を失ったりした場合は、救急医療が必要かどうかを確認する必要があります。開いた傷は掃除してチェックする必要があります。可能であれば、負傷した部分を持ち上げて重力を利用し、腫れを最小限に抑えます。スポーツ傷害の治療経験のある人は、骨が折れておらず、動きによって損傷が増加しないことを確認する必要があります。損傷が筋肉または他の軟組織に限定されている場合、医師、トレーナー、またはコーチが圧迫包帯を適用することがあります。怪我にアイシングをすると痛みが軽減されることが示されているので、怪我が発生した直後に、怪我をした部分を短時間アイシングすることが許容されます。最大10分間冷やし、20分間除去し、そして、10分間のアイシングを1回または2回繰り返します。怪我をしてから6時間以上アイシングをする理由はありません。』
ということで、怪我の直後に10分アイシング、20分休憩、10分アイシングを痛みを抑えるためにやるのがおすすめのようです。それ以上やると怪我の治りが遅くなる、ということですのでアイシングのやりすぎに気をつけましょう。
私が以前スポーツ外傷について学んだときは48時間はアイシングを繰り返せと習ったので、随分時代は変わったのだなあ、と改めて思いました。
以前の常識が今は非常識になっている例は数え上げればきりがありませんが、そういういわゆるパラダイムシフトに気付けるか気づけないかは日々学び続ける姿勢によるのだろうと思います。
アイシングに関しては今後さらに研究が進んでいくと思います。結局、理想的なアイシング方法とは?そもそもアイシングはした方がいいのかしない方がいいのか?時と場合によるのでしょうが、今のところは炎症を抑えるためにやるのではなく、鎮痛を促すために短時間行うのが良いとされるようです。
冷たいものの飲食が体に与える影響について考察
以上のことを踏まえて、冷たいものの飲食について考えていきたいと思います。
冷たいものといえばどういうものを思い浮かべますか?
アイスクリーム、かき氷、アイスティー、アイスコーヒー、ビール、冷やし中華、そうめん、すいかなど、夏に食べたくなるものが多いように思います。
冷たいものは口から入り、食道を通り、胃に入り、十二指腸から小腸、大腸を経て各種栄養素は消化吸収され、残りは大小便や汗として排出されます。これは冷たいものに限らず、飲食物すべてがこの道を辿ります。
冷たいものの特徴は触れた部位を冷やすことです。
体の外側、つまり皮膚は衣服などで覆うことで外気に触れないように保護することができますが口から肛門までの消化器、胃や腸管は体の内側に位置するものの、粘膜に覆われているものの飲食物の温度の影響を直に受けます。
胃や腸も平滑筋という筋で出来ていますのでアイシングによる骨格筋への影響と同様であろうと推測できます。
骨格筋の炎症に対して長時間のアイシングが治癒を遅らせるのであれば、例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍なども胃や十二指腸の平滑筋の炎症と言えるでしょう。強めのお酒をたくさん飲んだ次の日に水を飲んだ際、食道が焼けるように痛んだ経験のある方もいらっしゃるでしょう。あれはアルコールが食道の粘膜に炎症を引き起こしている証拠です。このような消化器粘膜の炎症の治癒も冷たい飲食物の多量摂取によって治癒を遅らせる要因になり得ることが示唆されます。
冷たいものが腸管や体の深部の体温を低下させることは間違いないでしょうがそれがすべて良くないこととは限りません。夏の暑い日などでは熱中症予防のために冷たい飲み物を飲むことは適切な対応ですし、「アイススラリー」という運動前に冷たい飲み物を飲んだ方がパフォーマンスが向上する場合もあります。
https://www.nsca-japan.or.jp/journal/26_6_07-11.pdf
冬の屋外で何もしていない状態でアイスクリームを食べるというのは若い人ならば大丈夫でしょうが、体調の良くない人や冷え性の人やある程度年齢を重ねた人は控えた方がいいかもしれません。しかし、たとえ冬の屋外だったとしても、これから激しい運動をするなど、それなりの条件が揃えば一概に冷たいものを摂ることを否定されるものでもないでしょう。
特に運動前であれば、腸管には迷走神経という体をリラックスさせる副交感神経の含まれる脳神経が支配しているので腸管を冷やすということは副交感神経の抑制につながります。そうすると反対の交感神経が優位となり、運動に適した自律神経の状態となるでしょう。
「冷え性だけどアイスクリームが食べたい」という人には、激しい運動の前に召し上がることをお勧めします。
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