先日【東京都はりきゅうあん摩マッサージ指圧師会】の研修会が開催され、その様子がYouTubeにてアップロードされています。
こちらが非常に秀逸な内容でしたので是非とも皆様にその内容を共有したいと思い、講習会の要約を以下の通りしたいと思います。
うつ病の人はどのくらいいるの?
生涯に一度はうつ病になる人の割合は5.7%と言われております。
小学校の1クラス30人だったとして、クラスに1−2人、東京ドーム55000人収容したとしてその中の3135人というイメージでしょうか。
では、過去12ヶ月にうつ病になった患者が医療機関を受診した割合はどうでしょうか?
答えは30.3%
これは少ないように思いますよね。
一般人が1000人いたとして、その中で何らかの異常を持つ人は862人いると言われており、そのうち307人しか医療機関を受診しないそうです。
では残りの555人は医療機関とは別のところへ行くのか、異常を感じながらも我慢するということなのかもしれません。
話をうつ病に戻しましょう。
うつ・うつ状態・うつ病の違い
まずはうつ気分とうつ状態の違いは次のとおりです。
・うつ気分:「憂鬱である」「気分が落ち込んでいる」などの一時的な気分の落ち込み
・うつ状態:抑うつ気分が強く、うつ病のいくつかの症状が持続している状態
うつには次のようなグラデーションがあります。
うつ状態:うつの原因が明らか(職場や家庭や学校で嫌なことがあったなど)
広義のうつ病:原因は問わず、症状の数や程度で診断する。専門家でなくてもうつ病の概念を共有できる
DSM-5という精神疾患の診断・統計マニュアルを用いて診断が行われます。
狭義のうつ病(内因性うつ病、古典的うつ病):遺伝的要因が強いうつ病。なぜそのように落ち込むのか原因がわからない
今回扱ううつ病は主に広義のうつ病なのでまずはDSM−5のうつ病を診断する際に用いられる抑うつエピソードをご紹介します。
DSM-5:抑うつエピソード
A)以下の症状のうち5つ以上が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている
:これらの症状のうち少なくとも1つは、1.抑うつ気分または2.興味または喜びの消失である。
1、抑うつ気分
2、興味または喜びの消失
3、体重の増加あるいは減少(1ヶ月で5%)、食欲の増加あるいは減退
4、 不眠、あるいは睡眠過多
5、精神運動性の焦燥あるいは制止(話すことや動くことが遅くなる、他人から見て明らかに落ち着かない)
6、易疲労性または気力の減退(歯磨きや入浴が億劫でできない)
7、無価値観または過剰な(不適切な)罪責感(自分には価値がない、全部自分のせいだ)
8、思考力や集中力の減退または決断困難(テレビや新聞の内容が頭に入らない)
9、死についての反復思考・自殺念慮・自殺企図(死について考え、死にたいと思い、計画してしまう)
B)症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能障害を引き起こしている
(症状により社会的に障害が生じている)
C)エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響によるものではない
(物質的な影響、他の医学区的疾患によるものではない)
D)精神病性障害(統合失調症および類縁疾患)ではうまく説明できない
E)躁病/軽躁病エピソードが存在したことがない
上記アニュアルによってうつ病の診断がされます。
気をつけていただきたいのは診断は医師がするものだということです。
このマニュアルに沿って医師以外の者が診断をしてはいけませんし、自分はうつ病だ、と勝手に思い込んでしまってもいけません。もしかしたらうつ病かもしれない、と思うのであれば、心療内科、もしくは精神科を受診して医師に相談していただくことが大切です。
次にうつ病の臨床症状について見ていきます。
うつ病の臨床症状
下記のリストはうつ病の初期の各症状が右へ行くほど重度になっていく様を提示しています。
初期症状→ → →重度
空虚感
→抑うつ気分
→絶望感
楽しくない
→興味の消失
→喜びの消失
億劫
→食欲減退
→体重減少
中途覚醒
→不眠
→夜が怖い
疲れが抜けない
→疲労感
→ 動けない
自分はダメだ
→ 罪責感
→罪業妄想
ミス増えた
→集中力低下
→思考制止・焦燥
楽になりたい
→希死念慮
→計画・行動
また、臨床の際、うつ病を疑う特徴が以下の通りです。
・多彩な訴え(首も肩も腰も痛い、頭痛もする、胃も痛い、便秘もするし下痢もする、眠れない、足がむくむなど)
・どこが辛いのか、痛いのか確認するとはっきりわからない
・検査所見に比べて症状が強い
・検査で異常がなく、しかも長く持続する
・「この症状さえ取れれば元気でやれそうな気がする」
・調子が悪いのに「休めない」と答える
さらに、うつ病の患者は自分の症状を伝えずらい傾向があります。以下のリストはうつ病患者っが問診の際、各症状について自ら訴えた割合と医師が患者から聞き出した割合の比較です。
患者が訴えた割合:医師が聞き出した割合
身体症状
睡眠障害
26%:68%
疲労感・倦怠感
58%:31%
首・肩こり
22%:62%
頭重・頭痛
23%:43%
精神症状
意欲・興味の減退
4%:87%
仕事能力の低下
3%:82%
抑うつ気分
3%:67%
不安・取り越し苦労
3%:55%
身体症状は患者から訴える割合は比較的ありますが、精神症状に関してはほとんど患者からの訴えはなくほとんどが医師から聞き出して初めて明らかになる印象ですね。
次に医療機関ではうつ病に対してどのような治療がされるのかを見ていきます。
主な標準治療:薬物療法
軽度のうつ病であればカウンセリングなどの薬物以外での治療が中心ですが中等度以上になりますと薬物による治療が標準治療となります。どのような症状に対してどのような薬が使われるのでしょうか。
以下のリストをご覧ください。
抗うつ薬:気分を良くする
抗精神病薬:興奮を抑える
気分安定薬:気分を安定させる
抗不安薬:不安を取り除く
睡眠薬:眠りを良くする
薬物療法の課題としては、最初の抗うつ薬によって寛解が得られる患者は全体の1/3程度という調査報告があり、抗うつ薬治療の継続率が3ヶ月後には50%、6ヶ月後nには30−40%に低下します。
うつ病の患者は精神症状だけでなく身体症状も多岐にわたる場合があります。その際、各症状に対して薬物療法だけで対処すると以下のようにあっという間に多剤併用となり大量の薬を飲まなければならなくなります。
頭痛 → 頭痛薬
肩こり → 筋弛緩薬
腰痛 → 鎮痛剤
下痢 → 整腸剤
腹痛 → 胃薬
不眠 → 睡眠薬
めまい → 制吐剤
しかし上記の各症状に対して効果が期待できる治療法として【はり治療】があります。頭痛、肩こり、腰痛ではり治療に来られる方は当院でも多くいらっしゃいますし、針治療後は良く眠れるという方ばかりです。はり治療をうつ病の標準治療と併用することで使用する薬の種類を減らすことができるのではないでしょうか。うつ病の標準治療と併用する際、具体的にどのようなはり治療が症状改善に期待できるかは後ほど述べさせて頂きます。
ところで、なぜうつ病患者は多彩な症状を呈するのでしょうか?次にそのメカニズムを見ていきます。
うつ病が多彩な症状を呈するメカニズム
世の中にはさまざまなストレスがあります。例えば天候や気温、湿気や乾燥などの環境が与えるストレスもあれば社会環境、職場や学校や家庭での人間関係や友人関係がストレスになる場合もあります。
何がストレスになるかは人それぞれ違いますがストレスに対する体の反応は次のようになります。
人体がストレスにさらされるとSAM系(sympathetic-adrenal-medullary axis:視床下部-交感神経-副腎髄質系)という自律神経系の反応が起こります。
ストレスの暴露によって視床下部から交感神経を介して副腎髄質に指令を出し、免疫システムを活性化させます。すると脳に炎症反応が起こり、モノアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質の総称)の分泌を低下させます。モノアミンの中にはやる気や元気に関わる物質が多く含まれるのでモノアミンの分泌が低下すると気分が沈んだり落ち込んだりした状態になります。そうならないようにもう一つのストレスに対する反応があります。
それはHPA系(hypothamic-pituitry-adrenal axis:視床下部-脳下垂体-副腎皮質系 )です。
視床下部から脳下垂体を介して副腎皮質にコルチゾールというSAM系によって活性化した免疫システムに抑制をかける物質を分泌させます。すると脳の炎症反応は収まり、モノアミンの分泌も正常化します。
一時的なストレスであればこのようなメカニズムで正常な状態を保つことができますがストレスが持続するとそうはいきません。
持続的にストレスにさらされると免疫システムに抑制をかけているHSP系が次第に疲労していきます。さらにストレスが続くとコルチゾールの分泌が低下し免疫システムの抑制が効かなくなり活性化してしまいます。
そして脳内で炎症反応を起こしモノアミンの分泌が低下することになるのです。この状態が持続すると脳の慢性炎症となりこれがうつ病の原因として仮説の一つ【モノアミン仮説】として考えられています。
モノアミン仮説
モノアミン仮説とは、モノアミンの中の精神活動に影響を与える神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの減少が相互に影響しあって中枢性感作という中枢神経の感受性が変化してしまう状態に陥ってしまう、という説です。
作用 分泌量低下すると
ドーパミン
:快感・欲動
→楽しみの喪失
ノルアドレナリン
:覚醒・集中・意欲
→意欲低下
セロトニン
:情動・睡眠
→緊張・焦燥
ノルアドレナリン+セロトニン
:不安
→さらに不安が増す
ドーパミン+ノルアドレナリン
:活動性・動機づけ
→機能低下
セロトニン+ドーパミン
:食欲・性欲
→食欲不振・性欲低下
ドーパミン+ノルアドレナリン+セロトニン
:気分・情動・思考・認知機能
→ 思考力・認知機能低下
これによって医学的に説明のつかない症状が起こるのではないかと考えられています。
どのような症状かといえば、具体的には抑うつ・疲労感・睡眠障害、めまい・耳鳴り、息苦しさ・動悸、下痢・便秘・吐き気などの胃腸の不調、頭痛、肩こり、手足の痺れ・筋肉の痛み、膝痛・背中の張りなどです。
この説に則れば、うつ病は脳の病気であって、脳の機能を改善させることが治療の目標のなるのかもしれません。
脳の機能を改善することを期待できる治療法の一つに【頭皮はり通電治療】があります。
以下のページを参照いただけると幸いです。
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